令和6年度 税制改正大綱
令和6年度 税制改正大綱 -法人会の税制改正提言-
~法人には朗報!交際費から除外される飲食費等の金額が5,000円から10,000円に倍増~
政府は、令和5年12月22日に令和6年度税制改正大綱を閣議決定しました。
法人会が提言していた交際費課税の特例の延長や、損金不算入となる交際費から除外される飲食費等の額が引き上げられました。また、賃上げ税制を強化し、あわせて1人4万円の定額減税を実施することで、法人と個人の税制両面から、物価上昇に対する国民負担の緩和を目指す改正となりました。主な内容をお知らせします。
法人税関係
⑴交際費等の損金不算入制度の延長と改正
交際費の損金不算入制度の適用制限については、令和9年3月までに開始する事業年度まで延長され、損金不算入となる交際費から除外される飲食費等の額が、1人当たり10,000円(現行は5,000円)以下の飲食費等に引き上げられます。令和6年4月1日以後に支出する飲食費から適用になります。中小企業特例が利用できない会社では、社内規程の見直し、従業員への周知徹底など有効に利用していくべきです。中小法人については、従来通り年間800万円まで損金算入が可能です。
⑵賃上げ税制
構造的な賃上げを実現するための施策として、給与等の支給額を増加した場合の税額控除制度について適用期限が3年間延長されます。①原則的なルール、②従業員数2,000人以下の法人向けルール、③中小企業向けルールの3階建ての構造になっています。
①原則的なルール
税額控除率を継続雇用者給与総額の増加率に応じて、控除率を変動させたうえで、教育訓練費の増加率や女性活躍・子育て支援の実施により税額控除率が上乗せされます。
継続雇用者 給与総額 | 控除率 | 教育訓練費 10%超 | 女性活躍・ 子育て支援 |
---|---|---|---|
3%以上 | 10% | 上乗せ5% | 上乗せ5% |
4%以上 | 15% | 上乗せ5% | 上乗せ5% |
5%以上 | 20% | 上乗せ5% | 上乗せ5% |
7%以上 | 25% | 上乗せ5% | 上乗せ5% |
②従業員数2,000人以下の法人向けルール
青色申告書を提出する法人で常時使用する従業員数が2,000人以下の場合は、継続雇用者給与総額の増加率に応じて次のような控除率となります。ただし、その法人と支配関係がある法人を合わせて常時使用する従業員数が10,000人を超える法人は、原則的なルールの適用になります。
継続雇用者 給与総額 | 控除率 | 教育訓練費 | 女性活躍・ 子育て支援 |
---|---|---|---|
3%以上 | 10% | 10%超 | 上乗せ5% |
4%以上 | 15% | 上乗せ5% | 上乗せ5% |
③中小企業向けルール
資本金1億円以下の中小企業向けの措置については、次の通りで控除限度額は5年間繰越が可能となります。
雇用者給与総額 | 控除率 | 教育訓練費 | 女性活躍・ 子育て支援 |
---|---|---|---|
1.5%以上 | 15% | 10%超 | 上乗せ5% |
2.5%以上 | 30% | 上乗せ5% | 上乗せ5% |
上記のグループごとに要件が順次緩和されていますが、②を適用可能な企業が、①を適用した方が有利な場合、①の適用が可能です。令和6年4月1日以後開始する各事業年度に適用されます。
⑶戦略分野国内生産促進税制の創設
産業競争力強化法の改正を前提に、青色申告法人が令和9年3月末までに、認定事業適応事業者としてその事業適応計画に記載された設備の新設又は増設に係る機械その他の減価償却資産を取得し、国内にある事業の用に供した時は、その認定日以後10年以内の各事業年度において税額控除が受けられる制度が創設されます。
⑷イノベーションボックス税制の創設
日本では従来から研究開発費税制として、入口の投資額に税制上の特典を与えていました。イノベーションボックス課税は特許権譲渡等の取引による所得、つまり出口に対して税負担を軽減する制度です。
青色申告法人が、令和7年4月から令和14年3月までに開始する事業年度に、居住者又は内国法人に対する特定特許権の譲渡又は他の者に対する特定特許権の貸付を行った場合は、①特許権譲渡等取引に係る所得金額に対する適格研究開発費割合又は②当期所得金額のいずれか少ない金額の30%を損金算入可能です。
⑸法人が有する市場暗号資産の期末における評価
法人が有する市場暗号資産に該当する暗号資産で譲渡についての制限その他の条件が付されている暗号資産の期末における評価額は、①原価法か②時価法のうち、法人の選定した評価方法によります。
⑹外形標準課税
外形標準課税の対象法人について、資本金又は出資金1億円超とする基準は維持されます。ただし、当分の間、その事業年度の前事業年度に外形標準課税の対象法人だった場合は、その事業年度に資本金1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超える場合には、外形標準課税の対象とされます。なお、施行日以後最初に開始する事業年度については、公布日を含む事業年度の前事業年度に外形標準課税の対象法人で、その施行日以後最初に開始する事業年度に資本金1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超える場合は、外形標準課税の対象とされます。施行日は、令和7年4月1日です。
⑺倒産防止共済の損金算入の制限
独立行政法人中小企業基盤機構が行う中小企業倒産防止共済にについて、共済契約の解除があった後、共済契約を締結した場合には、その解除の日から同日以後2年を経過する日までの間に支出するその共済契約に係る掛け金については損金算入できません。令和6年10月以後の共済契約の解除について適用されます。
相続税・贈与税関係
⑴事業承継税制の改正
事業承継税制について、特例承継計画等の提出期限が令和6年3月31日から令和8年3月31日まで、2年間延長されます。事業承継税制の特例贈与の適用期限は、従来通りです。
⑵住宅取得資金にかかる贈与税の非課税制度の延長
直系尊属からの住宅取得資金の贈与税の非課税措置について、令和8年12月まで3年間延長されます。上乗せ措置の対象となる省エネ等住宅の省エネ性能について、要件変更が行われます。
改正前 | 改正後 |
---|---|
・断熱等性能等級4以上又は 一次エネルギー消費量等級4以上 | ・断熱等性能等級5以上かつ 一次エネルギー消費量等級6以上 |
なお、耐震性能、高齢者等配慮対策等級等について変更はありません。また、非課税限度額にも変更がなく、省エネ等住宅であれば1,000万円まで、それ以外の住宅であれば500万円までとされています。令和6年1月1日以後の贈与から適用されます。
所得税関係
⑴定額減税
令和6年度分の所得税について3万円、令和6年度分の住民税について1万円、結果として1人当たり4万円の定額減税が実施されます。ただし、合計所得金額が1,805万円を超える場合には適用されません。なお、定額減税は、同一生計配偶者や扶養親族も対象となるので、配偶者と子供が2人の場合は、4人分として16万円の減税額になります。最短で6月以降の所得税と住民税から減額されます。
⑵適格ストックオプション税制の改正
①適格ストックオプション契約の権利行使により交付される譲渡制限株式の管理等に関する契約に従って、その株式会社において当該株式が管理等される場合には、金融商品取引業者等の営業所等に保管の委託等をしなければならないとの要件が不要とされます。
②年間の新株予約権の行使に係る権利行使価額の限度額について、次のとおりとされます。
イ設立以後5年未満の株式会社が付与する新株予約権については、1,200万円から2,400万円に引き上げられます。
ロ設立後5年以上20年未満の上場会社の株式で、上場後5年未満である株式会社が付与する新株予約権については、1,200万円から3,600万円に引き上げられます。
③中小企業等経営強化施行規則の改正を前提として、適用対象となる特定従事者に係る要件が緩和されます。
④権利者が予約券に係る付与決議の日においてその新株予約権の行使に係る株式会社の大口株主等に該当しなかったことを誓約する書面等について、電磁的記録で提供できることになります。
⑶エンジェル税制の改正
エンジェル税制が利用できる投資について、一定の要件を満たすストックオプションによる投資及び中小企業等経営強化法施行規則の改正を前提とする一定の信託を通じた株式の取得が含まれることになります。
⑷住宅ローン減税の改正
認定住宅等を取得して令和6年中に居住の用に供した場合の住宅ローン減税について、次の要件に該当する者を子育て特例対象個人として借入限度額が上乗せされます。
①40歳未満であって配偶者を有する者
②40歳未満の配偶者を有する者又は年齢19歳未満の扶養家族を有する者
子育て特例対象個人 | その他 | |
---|---|---|
認定住宅 | 5,000万円 | 4,500万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 4,500万円 | 3,500万円 |
省エネ基準適合住宅 | 4,000万円 | 3,000万円 |
また、40平米以上の床面積要件の緩和措置は、令和6年中に建築確認を受けた家屋について適用期間が1年間延長されます。
⑸既存住宅のリフォームに係る税額控除
既存住宅に係る特定の改修工事をした場合の特別控除は、子育て特例対象個人が、その者の所有する居住用の家屋について一定の子育て対応改修工事をして、令和6年4月から12月までの間に居住の用に供した場合を適用対象となります。子育て対応改修工事とは、①住宅内における子どもの事故を防止するための工事、②対面式キッチンへの交換工事、③開口部の防犯性を高める工事、④収納設備を増設する工事、⑤開口部・界壁・床の防音性を高める工事、⑥一定の間取り変更工事です。子育て対応改修工事に係る標準的な工事費用相当額(250万円を限度)の10%に相当する金額が控除額となります。
なお、従来の既存住宅に係る特定の改修工事をした場合の特別控除については、適用対象者の合計所得金額要件を2,000万円以下に引き下げて、その適用期限を2年間延長します。
資産税関係
土地に係る固定資産税等の負担調整措置
宅地等及び農地の負担調整措置については、令和6年度から令和8年度までの間、現行の負担調整措置の仕組みが継続されます。
消費税関係
⑴プラットフォーム課税の導入
国外事業者がデジタルプラットフォームを介して行う一般向け電気通信利用役務の提供のうち、指定を受けた特定プラットフォーム事業者を介して対価を収受するものについては、特定プラットフォーム事業者が行ったものとみなされます。令和7年4月以後に行われる電気通信利用役務の提供について適用されます。
⑵国外事業者に対する事業者免税点制度の見直し
①特定期間における課税売上高による納税義務の免除の特例について、売上高の代替として給与支払額による判定の対象から国外事業者が除外されます。
②新規設立法人に対する納税義務の免除の特例について、外国法人は基準期間を有したとしても、国内における事業の開始時に、新規設立法人として判定が行われます。
③特定新規設立法人に対する納税義務の免除の特例について、特定新規設立法人の範囲に、その事業者の国外分を含む収入金額が50億円超である者が直接又は間接に支配する法人を設立した場合にその法人が加えられます。基準期間を有したとしても、国内における事業の開始時に、特定新規設立法人として判定が行われます。令和6年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。
⑶国外事業者に対する簡易課税制度等の見直し
課税期間の初日においてPEを有しない国外事業者については、簡易課税制度の適用を認めないことになります。また、適格請求書発行事業者となる際の2割特例についても利用できないこととされます。令和6年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。
⑷高額特定資産の見直し
高額資産を取得した場合の事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を制限する措置の対象に、その課税期間に取得した金又は白金の地金等の額の合計額が200万円ある場合が加えられます。令和6年4月1日以後の仕入れ分から適用されます。
⑸適格請求書発行事業者以外の者から行った課税仕入れ
1件の適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れの合計額がその年又はその事業年度で10億円を超える場合は、その超えた部分の課税仕入れについて80%の経過措置は認めないこととされます。令和6年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。
⑹登録申請書の提出期限の変更
インボイス制度で帳簿への記載を要件としていた自動販売機特例については、帳簿への住所等の記載が不要とされました。令和5年10月1日以後に行われる帳簿の記載について、運用上記載がなくても改めて求めないものとされます。
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